ホワイトボードの前で投資戦略を語るビジネスマン。その影は操り人形のように糸で操られている

不動産営業の常套句を「自分の考え」だと思っていた知人の話

不動産実務 2026.03.15 公開
#不動産投資 #営業手法 #ワンルーム投資 #サブリース #宅建士

この記事でわかること

Q. 不動産投資の営業でよく使われる常套句にはどんなものがありますか?
A. 代表的なものは「月々の手出しはたった2万円」「家賃保証があるので安心」「節税で年間100万円お得」「将来の年金代わりになる」「生命保険代わりになる」の5つです。いずれも事実の一部だけを切り取り、リスクやコストの全体像を見せない点で共通しています。
Q. サブリース契約にはどんなリスクがありますか?
A. 主なリスクは3つあります。賃料が2年ごとに見直され減額される可能性があること、オーナーからの中途解約には正当事由が必要で簡単に解約できないこと、サブリース会社が倒産すれば保証自体が消滅することです。サブリース会社は構造的にリスクを負わない仕組みになっています。
Q. 不動産営業に騙されないためにはどうすればよいですか?
A. 最も有効なのは、営業担当者以外の第三者に同じ条件を見せて意見を聞くことです。AIに収支シミュレーションを計算させる、利害関係のない宅建士にセカンドオピニオンを求める、自分が「なぜそう思ったのか」の出発点を振り返る、といった方法があります。自分の考えだと思っていることが、実は誰かの言葉から始まっていないかを確認することが重要です。

知人の「戦略」を聞いて、違和感を覚えた

先日、知人から不動産投資の話を聞いた。本人は真剣だった。自分で調べ、自分で考え、自分で導き出した投資戦略だと語っていた。

ところが、聞けば聞くほど既視感がある。その言葉の一つひとつが、不動産営業のテンプレートとほぼ同じだったのだ。

完全に洗脳されている――そう思わざるを得なかった。

不動産投資の5つの常套句

知人が語った「戦略」の中身を、一つずつ分解してみよう。

「月々の手出しはたった2万円」

一見すると少額に思える。だが、これはローン返済・管理費・修繕積立金を差し引いた後の持ち出し額だ。月2万円でも年間24万円。20年のローン期間で480万円。

しかも、この「たった2万円」は現時点の話でしかない。金利が上がれば返済額は増え、築年数が経てば修繕積立金も上がる。空室が出れば、手出しは2万円どころではなくなる。「たった」という言葉で矮小化しているが、累積すれば相当な金額になる。

「家賃保証があるので安心」

サブリース契約のことだ。「空室でも家賃が入る」と聞けば安心するだろう。だが、サブリース賃料は2年ごとに見直される。新築時の賃料がずっと続くわけではない。特に築10年を超えると、賃料の減額幅は大きくなる。

しかも、サブリースには別の問題がある。これについては後述する。

「節税で年間100万円お得」

不動産投資の節税効果は、減価償却によるものだ。建物の取得費用を耐用年数で按分し、毎年の経費として計上する。ところが、投資用ワンルームマンションの多くはRC造だ。RC造の法定耐用年数は47年。つまり、減価償却費は年あたりで非常に小さくなる。

都心のワンルームマンションなら建物価格は4,000万円程度だが、47年で割れば年間約85万円。所得税率30%の人でも、節税効果は年間約25万円にしかならない。

「年間100万円の節税」という数字は、初年度の諸経費や借入金利息を含めた数字であることが多い。2年目以降は大幅に縮小する。

「将来の年金代わりになる」

ローンを完済すれば、家賃収入がそのまま手元に残る。だから年金代わりになる――そういう理屈だ。

だが、20年ローンを組んで完済した後の物件は築20年以上だ。築20年を超えたワンルームマンションの賃料は、新築時から20〜30%下落するのが一般的だ。さらに、大規模修繕の一時金負担、設備の老朽化、入居者確保の難しさが重なる。「年金代わり」どころか、持ち出しが発生する可能性すらある。

「生命保険代わりになる」

団体信用生命保険(団信)に加入すれば、万が一のとき、ローン残債がゼロになる。だから生命保険代わりだ――これもよく聞くフレーズだ。

確かに、団信はローン返済をカバーする。だが、それは「ローンがなくなる」だけであり、「資産が残る」こととイコールではない。残された物件の市場価値は、築年数とともに下がり続ける。団信で守られるのはローンであって、資産価値ではない。同じ保険料で掛け捨ての生命保険に加入したほうが、保障額は大きくなることが多い。

新築プレミアムという見えないコスト

新築物件には「新築プレミアム」と呼ばれる上乗せ価格がある。新築というだけで、周辺の中古相場より数百万円高く設定される。入居した瞬間に「中古」になるため、数年で価格が数百万円下がるのは珍しくない。つまり、購入した時点ですでに含み損を抱えている可能性がある。

サブリースの構造的な闇

先ほど後述すると書いたサブリースの問題に触れる。サブリース契約には、賃料減額以外にも深刻なリスクがある。

中途解約が困難。借地借家法上、サブリース会社は「借主」として保護される。オーナーからの解約には正当事由が必要だ。「もっと高く貸したい」「自分で管理したい」は正当事由にならない。

サブリース会社の倒産リスク。サブリース会社が倒産すれば、家賃保証は消滅する。保証していた会社がなくなるのだから当然だ。

ここが本質的な問題だ。サブリース会社にとって不利になれば、賃料を下げるか、最悪の場合は契約を解除できる。一方、オーナーにとって不利になっても、簡単には解約できない。サブリース会社は構造的にリスクを負わない。リスクを負っているのは、常にオーナーの側だ。

本当に驚いたのは、投資の良し悪しではない

ここまで常套句を分解してきたが、今回驚いたのは投資の良し悪しではない。知人は、これらを営業トークとして聞いたわけではなかった。自分で調べ、自分で考え、自分で導き出した結論だと、本気で信じていた。

ところが、語っている内容は不動産営業のテンプレートとほぼ同じだった。ここで、ある構造に気づいた。

営業・詐欺・洗脳の共通点

詐欺、営業、洗脳。この三つには共通する技術がある。

本人に「自分の意思で決めた」と思い込ませることだ。

目的はひとつ。外部から与えられたフレームを、自分の思考だと錯覚させること。営業の本当の技術は、商品を売ることではない。顧客にその言葉を自ら語らせることだ。

「月々たった2万円ですよ」と言うのは三流の営業だ。一流の営業は、顧客自身に「月2万円なら出せるな」と言わせる。そうなれば、もう止められない。自分で出した結論だと思っているからだ。

短期間でやれば詐欺。長期間かけてやれば洗脳。その中間に、営業がある。手法は違えど、構造は同じだ。

引き返せなくなる前に

問題は、引き返せなくなったあとでは遅いということだ。人は、自分の判断が間違いだったと気づいても、なかなか認められない。認知的不協和という心理が働く。「自分が選んだのだから正しいはずだ」と、事実のほうを歪めてしまう。

そして、ずるずると損失を拡大させ、最終的には誰かの助けを待つことになる。だが、助けを求められた側にできることは限られている。すでに契約は成立し、ローンは組まれ、サブリース契約は解約できない。

だからこそ、まだ引き返せるうちに立ち止まる必要がある。

自分の考えかどうかを確かめる方法

では、どうすれば「自分の考え」が本当に自分のものかを確認できるか。

その考えの出発点を辿る。「なぜそう思ったのか」を3回繰り返す。出発点が営業担当者の言葉だったなら、それは自分の考えではない。

利害関係のない第三者に聞く。営業担当者は売れば手数料が入る。利害関係のない宅建士や、そもそも不動産を売る立場にない人間に、同じ条件を見せて意見を聞く。

AIに計算させる。AIは忖度しない。収支シミュレーションを入力すれば、客観的な数字が返ってくる。「月々2万円の手出し」がローン期間中にいくらになるか、家賃が下落したらどうなるか、数字は嘘をつかない。

重要なのは、AIに「この投資は良いですか?」と聞くことではない。条件を入力して、自分で数字を見ることだ。判断するのは自分だが、判断材料は客観的であるべきだ。

誰の言葉を語っているのか

最後に、一つだけ問いを残しておく。

あなたが今、誰かに語っている「自分の考え」は、本当にあなたの言葉だろうか。それとも、誰かがあなたに語らせた言葉だろうか。

その区別がつかなくなったとき、すでに手遅れかもしれない。だからこそ、立ち止まって確かめる手段を持っておくべきだ。AIでも、信頼できる第三者でも、何でもいい。忖度なしに答えてくれる存在を、一つは確保しておくことだ。

引き返せるうちに。

本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の取引や投資判断に関する助言ではありません。具体的なご相談は、各分野の専門家にご依頼ください。

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