10年前に聞いた「えぐい分筆で相続税を取り戻す」話を、宅建士になった今、検証してみた

10年前に聞いた「えぐい分筆で相続税を取り戻す」話を、宅建士になった今、検証してみた

不動産実務 2026.03.14 公開 2026.04.13 更新
#相続税 #分筆 #登記簿

この記事でわかること

Q. 相続税の還付(更正の請求)とは何ですか?
A. 相続税を払いすぎた場合に、申告をやり直して差額の還付を受ける手続きです。申告期限から5年以内に請求でき、土地の評価見直しにより数百万円〜数千万円が還付されるケースもあります。
Q. 分筆で相続税を節税できますか?
A. 角地や二方路線地の分筆など、分割後の各土地が有効利用できる場合は合法的に評価額を下げられます。ただし、無道路地や帯状地を意図的に作る分筆は「不合理分割」として国税庁に否認され、分筆前の状態で評価されます。
Q. 不合理分割とは何ですか?
A. 相続税の評価減を狙って、現実の利用状況を無視した分筆を行うことです。財産評価基本通達7-2(1)に基づき、無道路地の創出・帯状地の創出・著しく狭小な画地の創出などが該当し、分筆前の一体の土地として評価されます。

プロローグ——不動産業界に入る前の話

あれは2012年頃のことだ。当時の私はシステムエンジニアで、不動産の「ふ」の字も知らなかった。

ある税理士の話を人づてに聞いた。

「相続税の申告をやり直して、払いすぎた税金を還付させる。報酬は成功報酬。土地の分筆を使って評価額を落とし、数百万円から数千万円を取り戻す。」

当時の私は半信半疑だった。そんなうまい話があるのか。税金は法律で決まっているのだから、誰が計算しても同じ額になるのではないか。

それから10年以上が経ち、私は宅地建物取引士となり、不動産仲介業を営むようになった。登記簿を読み、土地の形状を調べ、路線価を確認する日々の中で、あの話の輪郭が少しずつ見えてきた。

今回、当時聞いた話を宅建士の視点で検証してみることにした。

第1章 あの話は本当だったのか——相続税還付ビジネスの実態

結論から言えば、本当だった。しかも想像以上に大きなビジネスだった。

国税庁の統計によると、令和4年度だけで全国673名の相続人に対して合計14億1千万円の還付が行われている。単純平均で1人あたり約210万円。高額なケースでは数千万円に達する。

そしてこの還付手続き(「更正の請求」という)を代行する相続税専門の税理士法人が、実際に複数存在する。報酬体系は完全成功報酬制——還付が成功しなければ費用は一切発生しない。

なぜこんなビジネスが成立するのか。

理由は単純だ。土地の相続税評価は、税理士によって結果が大きく変わるからだ。

税率は法律で決まっている。しかし、その前段階——「この土地をいくらと評価するか」の部分が、評価者の技量に大きく依存する。不整形地補正、無道路地補正、間口狭小補正、奥行長大補正……適用できる減額要素を見落とせば、評価額は膨らみ、相続税は増える。しかも、払いすぎても税務署は教えてくれない。

ある税理士法人のサイトにはこう書かれていた。「相談された地主や不動産オーナーのうち、約7割に相続税還付の可能性が見つかっています。」

第2章 2012年という時代——節税スキームの黄金時代

私があの話を聞いた2012年(平成24年)頃は、相続税をめぐるスキームが百花繚乱の時代だった。

広大地評価の全盛期。 三大都市圏で500㎡以上の土地なら、最大65%もの評価減が可能だった。判断基準が曖昧で、税理士によって「適用できる/できない」の見解が分かれることが常態化していた。この広大地評価は、あまりに問題が多かったため2018年(平成30年)に廃止されている。

更正の請求期限が5年に延長された直後。 2011年12月の税制改正で、期限が1年から5年に大幅延長された。これにより還付ビジネスの対象案件が一気に拡大した。

基礎控除引下げ前の駆け込み期。 2015年から基礎控除が4割カットされることが決まりつつあり、相続税対策への関心が急激に高まっていた。

この3つが重なった2012年前後は、まさに相続税還付ビジネスの離陸期だった。還付請求の件数は2012年からの4年間で1.5倍に急増し、1万件を超えたという。

第3章 「えぐい分筆」の正体——土地の価値を落とす手法

当時聞いた話の核心は「分筆で土地の評価額を下げる」というものだった。宅建士になった今、この手法の仕組みを具体的に説明できる。

手法1:無道路地の創出

一枚の土地を2つに分け、接道部分(道路に面した細い部分)を相続人Aに、奥の広い部分を相続人Bに取得させる。

するとBの土地は道路に接していない「無道路地」になる。無道路地は建物を建てられないため、相続税評価で最大40%の減額が適用される。5,000万円の評価額が3,000万円になるわけだ。

無道路地の創出スキーム:接道部分をAが取得し、奥の土地Bを無道路地にする

手法2:不整形地の創出

土地を斜めに分割して三角形にしたり、極端に細長い帯状地にしたりする。不整形地は利用価値が低いため、不整形地補正率により最大40%の減額が可能。

不整形地の創出スキーム:斜め分割で三角形・不整形な画地を意図的に創出する

手法3:間口狭小・奥行長大の創出

道路に面した間口を極端に狭くする分筆を行い、奥に長い旗竿地を作る。間口狭小補正率と奥行長大補正率のダブル適用で大幅な減額を狙う。

間口狭小・奥行長大の創出スキーム:間口を極端に狭くし、奥行長大な旗竿地を創出する

これらを組み合わせれば、理論上は評価額を半分以下にできる。相続税率が30%なら、1,000万円単位で税額が変わってくる。

成功報酬が還付額の30%だとしても、税理士にとっては数百万円の報酬になる。依頼者にとっても、成功報酬を差し引いてなお手元に数百万円が残る。双方にメリットがある構造だった。

第4章 国税庁は黙っていなかった——「不合理分割」の壁

しかし、宅建士として登記簿と財産評価基本通達を読み込んでいくと、この手法には決定的な弱点があることに気づく。なお、分筆そのものの実務的な複雑さについては、昭和の分譲地の登記簿を9筆読み解いた実務レポートで実例を解説している。

国税庁は「不合理分割」という概念で、こうしたスキームを明確に封じている。

財産評価基本通達7-2(1)の注書にはこう書かれている。

遺産分割により現実の利用状況を無視した不合理な分割が行われた場合、無道路地としての補正や奥行が短小であることによる補正を行うことになるなど、実態に則した評価がなされないことになる。そのため、著しく不合理な分割が行われた場合は、その分割前の画地を「1画地の宅地」として評価する。

つまり、分筆しても分筆前の状態で評価される。節税効果はゼロだ。

国税庁のサイトには、不合理分割と認定される具体的パターンが図解付きで掲載されている(不合理分割(1)、不合理分割(2))。無道路地の創出、帯状地の創出、著しく狭小な画地の創出——まさに「えぐい分筆」のカタログだ。

裁決事例も積み上がっている

平成22年(2010年)には、分割後の宅地が無道路地および帯状地となるケースが不合理分割であるとする国税不服審判所の裁決が出ている。

さらに驚いたのは、相続開始の18年〜20年前に行われた同族会社への不動産の譲渡が不合理分割に該当するかが争われた事案の存在だ。被相続人が生前に、接道部分だけを自分の同族会社に売却しておき、相続時に残地を無道路地として評価させるスキーム。これも不合理分割と判断された。

20年前に仕込んでもダメということは、「生前対策としての分筆」も安全ではないということだ。

第5章 では、合法的な分筆節税はないのか

すべての分筆が否認されるわけではない。宅建士の実務から見て、以下のケースは合法的に機能する。

角地の分筆

角地(2本の道路に面した土地)を分筆して、別々の相続人が各筆を取得する。分割後の各土地がそれぞれ宅地として有効利用できるなら、不合理分割にはならない。角地の場合、側方路線影響加算が片方にしかかからなくなるため、合計評価額が下がる。

角地の分筆:各土地が道路に接し有効利用できるため合法的に評価額を下げられる

二方路線地の分筆

表と裏の両方に道路がある土地を、道路ごとに分筆する。これも各土地が有効利用可能であれば問題ない。

二方路線地の分筆:各土地がそれぞれの道路に接し、二方路線影響加算が不要になる

判断基準は「分割後に有効利用できるか」

国税庁が見ているのは、分割後の各土地が現在および将来において有効な土地利用が図られるかどうかだ。分割後の土地に建物が建てられる、駐車場として使える、庭として機能する——そうした「合理的な利用の説明」ができれば、不合理分割には該当しない。

逆に言えば、「この土地、何に使うの?」と聞かれて答えに窮するような分筆は、すべてアウトだ。

第6章 宅建士の目で見た「分筆スキーム」の本質的な問題

不動産仲介の現場に立つ宅建士として、このスキームにはもう一つ、税務以外の致命的な問題がある。

土地の流通性が著しく低下するということだ。

無道路地を意図的に作れば、確かに相続税は安くなるかもしれない。しかし、その土地を売ろうとしたらどうなるか。建物が建てられない土地を買う人はほとんどいない。仮に買い手が見つかっても、相続税評価額をはるかに下回る金額でしか売れない。

帯状地や極端な不整形地も同じだ。相続税は安くなっても、資産価値そのものが毀損する。

私が最近扱った物件がまさにそうだった。昭和50年代の分譲地で、宅地が5筆に分かれ、共有通路の持分が複雑に絡み合い、前面道路の私道は4筆に分割されて所有者が全国に散り散りになっていた。建売業者が一体の敷地にまとめるのに、相続登記の整理から始めて1年以上かかっている。

相続税対策とは別の経緯で生まれた権利関係だったが、「土地を細切れにする」ことの弊害を、身をもって実感した。

エピローグ——10年越しの答え

あの話は本当だった。そして、本当であるがゆえに、国税庁はきっちり対策を打っていた。

2012年頃は、まだグレーゾーンが広かった時代だ。不合理分割の裁決事例は少なく、広大地評価は曖昧で、還付ビジネスは急成長していた。あの税理士が語っていたスキームの一部は、当時なら実際に機能していた可能性がある。

しかし、あれから10年以上。広大地評価は廃止され、不合理分割の裁決事例は積み上がり、2022年には最高裁がタワマン節税すら否認した。国税庁と富裕層のイタチごっこは続いているが、分筆による評価減という穴は、かなりの程度まで塞がれている。

宅建士として私が学んだのは、節税のために土地の価値を毀損することの愚かさだ。

5,000万円の土地を3,000万円に評価して相続税を減らしても、いざ売ろうとしたら2,000万円の値段しかつかない——そんな「節税」に意味があるのか。

土地は、使いやすい形で、権利関係が明確で、流通しやすい状態であることが、長期的には最大の資産価値だ。分筆でそれを壊してまで目先の税金を減らすのは、自分の資産に自ら傷をつけるようなものだと、今は思う。

→ 関連記事: 認知症の親を狙う不動産詐欺——敵は外にも内にもいるでは、相続が発生する「前」の段階で親の資産をどう守るか——家族信託・任意後見・成年後見制度の使い分けを宅建士視点で整理している。分筆による節税を考える前に、そもそも親の判断能力があるうちに打つべき手がある。


本記事は2026年3月時点の法令・通達に基づく筆者の個人的な経験と見解であり、税務上のアドバイスを目的としたものではありません。税制改正により内容が変わる可能性があります。相続税に関する具体的なご相談は、税理士にご依頼ください。

本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の取引や投資判断に関する助言ではありません。具体的なご相談は、各分野の専門家にご依頼ください。

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